2011年7月24日日曜日

『分数ができない大学生』

本書は1999年に出版され、社会に大きなインパクトを与えました。大学の教授や学会の理事長といった教育にたずさわっている方達が、日本の教育政策の問題点・深刻な学力低下・他国との比較についてを述べています。

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印象に残ったこととして、大学受験における少数科目入試が基礎学力の低下につながる、があります。近年、日本の大学は、受験科目が少数化する傾向にあります。二科目入試や一科目入試など珍しくありません。少数科目入試の何が問題なのでしょうか。

一つに、得意な分野と不得意な分野の両方を学ぶことで、得意な分野を学ぶ考え方を客観的に捉えることができます。この能力は将来、未知の分野を学ぶときに多いに役立ちます。しかし少数科目入試にすることで、得意な分野しか勉強しなくなる可能性があります。

また、日本の学校教育は昔から「読み、書き、そろばん」を基礎学力の根本としていました。「読み、書き、そろばん」能力が、日本を世界でもトップクラスの経済大国に成長させたともいえます。少数科目入試は、その能力を削る可能性があります。具体例として、数学を受験科目から外す⇒学生は数学を勉強しなくなる⇒そろばんの能力が削られる、といったことでしょう。

他にも、大学の授業で、受験科目以外の知識をもとに進める場合、多くの学生がつまづくといったことがあります。具体例として経済学部をあげますと、受験科目を少数化する傾向で、経済学部の入学試験で数学を選択しなくてもいい大学が増えました。そのため、受験生の中には、高校時代に数学を全く勉強してこなかった人もいます。しかし経済を理解するためには、数学が必要です。そうして、大学の授業でつまずく学生が出てくるわけです。

では、大学受験でなぜ少数科目入試を取り入れているのでしょうか。大学独自の受験を課して、その大学にあった学生を入学させたい、その手段がたまたま少数科目入試だったのでしょうか。本書を読み進めていくと、「少数科目入試を取り入れることで受験生の偏差値を上げ、世間のその大学に対する評価を上げたい」、「科目を増やしたら、学生が集まらない」といった事情があるみたいです。もちろん、少数科目入試の弊害は、指導者・教育者のあいだで広く認識されています。しかし、1大学の力で解決するのは、とても難しいことです。なぜなら、その大学だけが多くの受験科目を課すことになれば、学生が集まらなくなるからです。これに関しては多くの大学で強調して同時に実施しなければ解決できません。

最後に。資源の少ない日本は、人的資本を広げざるをえません。基礎学力の向上はその国を成長させるための最大の力になります。今、世間では、ゆとり教育は失敗だととらえ、教育にもっと力を入れるべきだとの声が広まっています。これから教育政策がどう変わっていくか、興味深いですね。

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