2011年6月19日日曜日

『生物と無生物のあいだ』福岡伸一著

かなり前に流行った本ですが、読んでみました。

僕は、生物に関してほとんど無知ですが、それでも楽しめる本でした。
生物史っていうのでしょうか、生物学の発展と貢献した科学者の紹介をふまえた文書を読んでいる最中は、興奮しっぱなしでした。

PastedGraphic12-2011-06-19-20-43.jpg


僕の印象に残った科学者を二人紹介します。

■オズワルド・エイブリー
1940年代、オズワルド・エイブリーは実験により、核酸に形質転換の性質があることを発見しました。
この発見は、遺伝子の正体は核酸(DNA)ではないのか、ということを示唆しています。

彼は、肺炎双球菌の不思議な性質を調べることで、世紀の大発見をするのです。

実験をまとめてみます。
肺炎双球菌 S型:強い病原性を持つ
R型:病原性を持たない

・S型の菌を加熱して殺す→動物に注入→肺炎を起こさない
・加熱で殺されたS型の菌+R型の菌→動物に注入→肺炎を起こす→体内からS型の菌が見つかる

この結果は、菌の性質を変える物質が存在しているということです。

エイブリーは、S型の菌から様々な物質を取り出し、どの物質がR型菌をS型菌に変化させるのかを調べます。
そして結果は、核酸(DNA)でした。
つまり、核酸は、形質転換という遺伝子の性質をもっているということです。


ここからが悲劇です。
1940年代、遺伝子は形質に関する大量の情報を担っていることから、複雑な高分子構造をしているタンパク質ではないのか、と考えられていました。
核酸は高分子ですが、たった4つの要素しかない単純な物質です。

そういった時代背景もあり、エイブリーは慎重にならざるをえなかったのです。
核酸には形質転換の性質があるとの論文を出したときは、多くの科学者に非難されています。
核酸は遺伝子ではないのか、と示唆する論文を、多くの科学者は受け入れられなかったのです。


その後、時代は流れ、遺伝子の正体は核酸(DNA)であるとの論文を載せたワトソンとクリックは、ノーベル賞が与えられることになりました。


■ルドルフ・シェーンハイマー
時同じくして、体内に入り込んだアミノ酸の行方を調べた科学者がいます。

どのように調べたのか。
タンパク質を構成するアミノ酸には全て窒素が含まれています。
自然界に存在するほとんどの窒素の質量数は14(陽子:7 中性子:7)です。
しかし、わずかに代わり種もいて、質量数が15(陽子:7 中性子:8)の重窒素と呼ばれるものもいます。

そこに目を付けたルドルフ・シェーンハイマーは、重窒素をアミノ酸の窒素原子として挿入すれば、他のアミノ酸と区別できるので、追跡が可能になることを思いつきました。

ネズミに重窒素を含むエサを与え、重窒素を含むアミノ酸を追跡しました。
彼は、『成熟したネズミは、それ以上大きくなる必要がないので、生命維持のためのエネルギーとなって燃やされる』と予想していました。

結果は予想を裏切るものでした。
ネズミの体重は変わっていないが、与えられた重窒素の半分以上が身体のあらゆる部分のタンパク質の中に取り込まれていたのです。

事実として、ひとつのタンパク質を合成するためには一からアミノ酸をつなぎ合わせなければなりません。

その事実と実験結果は、多数のタンパク質が作られると同時に、その同じ量のタンパク質がアミノ酸に分解され、体外に捨てられることを示唆しているのです。

私たちの体内のタンパク質は日々置き換えられていることが、発見された瞬間でした。


■最後に
科学史に残る発見というものは、予想を裏切った結果を真摯に認め、考察していくところから始まります。
結果をあらゆる面から考察し、純化し、原因を突き止める。
この作業は、科学に限らず、どの分野でも大切だと思います。

0 件のコメント:

コメントを投稿